画像処理
深層学習
CNN / U-Net
Score-CAM
CBAM
異常検知
インフラ点検
あなたが渡った橋は、今日も安全ですか?
橋、トンネル、高速道路――私たちが毎日何気なく使っているインフラは、実は「老朽化」という大きな問題を抱えています。日本で高度経済成長期に建設されたコンクリート構造物の多くが、2033年までに建設後50年を超えると国土交通省は試算しています。老朽化が進んだコンクリートには「ひび割れ」が生じ、放置すると崩落事故につながります。
現在の主な点検方法は、専門家が足場を組み、目で見て確認する「目視点検」です。しかしこの方法は、人手・時間・コストがかかるうえに、見落としのリスクもあります。点検すべき構造物は全国に膨大な数があり、少子高齢化で担い手も不足しています。
「人間の代わりに、AIがひび割れを見つけられないか。」これが、藤田先生の研究室が20年近くにわたって取り組んできた問いです。
カメラで撮った画像から、ひび割れを自動で見つけ出す
藤田研究室では、コンクリート表面を撮影した画像をAIに読み込ませ、どこにひび割れがあるかをピクセル単位で自動検出する技術を研究しています。コンクリートの表面には汚れ・影・模様など、ひび割れに似た見た目のものが多く存在し、屋外画像は天候や光の当たり具合によっても見え方が変わります。人間でさえ見分けに迷うほど難しい判断をAIに学習させなければなりません。
研究室ではこれまでに、従来の画像処理技術から始まり、深層学習・CNN・U-Netへと技術を進化させながら精度を着実に向上させてきました。その成果は土木学会の論文奨励賞・論文賞という形でも認められています。
「AIよ、なぜそう思った?」を画像で示す
近年、研究室が特に力を入れているのが判断根拠の可視化です。AIが「ひび割れあり」と判断しても、なぜなのかが分からなければ現場の技術者は信頼して使えません。そこで藤田先生たちは、Score-CAMとCBAM(Convolutional Block Attention Module)という2つの技術を組み合わせることで、「AIが画像のどこに注目してひび割れと判断したか」をヒートマップとして視覚的に示す手法を開発しました。(精密工学会誌, 2026年)
浅い層(テクスチャや輪郭の情報)と深い層(意味的な特徴)の2つの視点を組み合わせることで、単独では出てしまうノイズを抑えながら、ひび割れの形状を高精度に浮かび上がらせます。また、ひび割れのサンプル画像すら用意しなくてよい異常検知モデルの応用にも取り組んでおり、「正常なコンクリート画像」だけを学習させ、そこから外れた部分をひび割れとして検出するアプローチでPatchCoreをはじめとする5つの最新モデルを比較・評価しています。(AI・データサイエンス論文集, 2024年)
🔍 この研究が面白い理由
コンピュータビジョン・機械学習・土木工学が交差するこの研究は、「実際の社会課題をAIで解く」醍醐味が詰まっています。スマートフォンで撮った動画からリアルタイムにひび割れを検出するシステムや、ドローン点検との組み合わせなど、応用の可能性も広がっています。
研究室では、アルゴリズムの設計からデータ収集・実験・論文執筆まで、学生が主体的に研究を進めます。「自分が作ったAIが、社会のインフラを守る」——そんな実感を持てる研究です。
弱教師あり学習
MIL
自己教師あり学習
SimCLR
半教師あり学習
アノテーション省力化
AIを育てるのに、なぜ膨大な「答え合わせ」が必要なのか?
「ディープラーニングは万能だ」と聞いたことがある人は多いでしょう。確かに様々な分野でAIは高い精度を発揮しています。しかしその裏側には、見落とされがちなコストが存在します。それがアノテーション——「これが正解だ」とデータにラベルを付ける作業です。
たとえばコンクリートのひび割れをAIに検出させようとすれば、何千枚もの画像に対して、専門家がひび割れの位置を1ピクセルずつ手でなぞってマーキングしなければなりません。1枚の画像に224×224=約5万ピクセルがあるとして、それを何千枚も……。「AIを使いたい。でも、正解データを大量に用意できない。」これは、インフラ点検・医療・製造業など、あらゆる現場が直面している共通の壁です。
「袋の中にリンゴがある」――粗いラベルで精密に学ぶMIL
藤田研究室が核心的な技術として研究しているのが、MIL(Multiple Instance Learning、多重事例学習)です。MILを一言で言えば、「どの部屋にいるかは分からないが、この建物の中に犯人がいる」という粗い情報だけからでも推理できる、という学習の仕組みです。「この画像にはひび割れがある/ない」という画像単位の大まかなラベルだけを使って、「どこにひび割れがあるか」という詳細な位置まで自動的に推定することができます。
さらに研究室では、これを多段階パイプラインに発展させました。まず粗い粒度でひび割れ候補領域を絞り込み、その結果を擬似ラベルとして次の段階の学習に使う連鎖的な仕組みです。「最初の段階の精度が上がれば、次の段階の精度も連動して上がる」というカスケード効果により、詳細なアノテーションなしでも高い検出精度を実現しています。(AI・データサイエンス論文集, 2023年・Intelligence, Informatics and Infrastructure, 2025年)
「比べることで学ぶ」――ラベルなしデータも活用する自己教師あり学習
もう一つのアプローチが自己教師あり学習です。その代表例がSimCLRという手法で、「同じ画像を少し変形させたものは同じ、異なる画像は違う」というルールだけをもとに、ラベルなしデータからAIに画像の特徴を学ばせます。子どもが「これがリンゴです」と教えられなくても、たくさんのリンゴを見るうちに特徴を自然に覚えていくのと同じ発想です。ラベルなし画像で十分に特徴を学んだ後、少量のラベル付きデータで仕上げの学習をすることで、F1値で10%の改善を実現した実験結果も報告されています。(AI・データサイエンス論文集, 2023年)
🔍 この研究が本当に面白い理由
この研究の最大の魅力は、「制約の中でどれだけ賢くなれるか」という知的パズルにあります。大量のデータと計算資源を使えば精度を上げることは誰でもできる。では、データが少ない・ラベルが粗い・現場の条件が悪い、という制約だらけの状況でどうするか——これが本質的に難しく、面白いところです。
また、この研究で培った「少ないデータで賢く学ぶ」技術は、ひび割れ検出だけでなく医用画像・製造検査・農業・環境モニタリングなど、あらゆるAI応用に横断的に使える汎用技術です。「AIのアルゴリズムそのものを設計する」という、AI研究の中核に近い領域を学べる点で、大学院進学を見据えた学生にも挑戦しがいのあるテーマです。
医用画像処理
超音波画像
肝硬変診断
MIL
ROI選択
診断支援
弱教師あり学習
「どこに住んでいても、同じ精度の診断を受けられる社会」へ
肝硬変は、肝臓が長期にわたる炎症や感染によって硬く変化していく深刻な病気です。放置すると肝不全や肝細胞がんに進行するリスクがあり、早期発見・早期治療が患者の予後を大きく左右します。
実際の診療では、血液検査・画像検査・症状・病歴など複数の情報を総合して診断が行われます。その中で、体に負担なく繰り返し行える腹部超音波検査は、肝臓の状態を確認するための重要な手段のひとつとして広く使われています。肝硬変が進行すると肝臓の組織が線維化し、超音波画像上では正常な肝臓とは異なる不均一な像が現れるようになります。ただし、超音波画像から肝臓の状態を読み取るのは容易ではなく、変化のパターンを見極めるには熟練した医師の経験と判断力が必要です。専門医が少ない地域や施設では、診断の質に差が生じてしまう現実があります。
「AIが超音波画像の定量的な解析を支援することで、医師の診断をより確かなものにできないか。」これが藤田研究室の医療系研究の出発点です。
「どこを見ればいいか分からない」画像と格闘する
超音波画像の解析をAIに学習させる試みには、技術的に難しい問題が重なっています。まず画像品質が低いこと。超音波画像はSN比が低く映像がざらついており、血管や他の臓器の影が混入することもあります。次に症例数が少ないこと。患者のプライバシー保護やデータ収集の難しさから、AIの学習に使える医療画像は限られています。
そして最大の難関が、画像上のどこに判断の根拠があるかを教師データとして与えにくいこと。超音波画像の肝臓のどの部位がどの程度線維化しているかを画素単位で正確に示すことは、熟練した医師にも困難です。診断のラベルは「この患者は肝硬変」という患者単位でしか付与されず、画像内の局所的な情報には明示的なラベルがありません。
ROIとMIL――「候補領域を絞り込み、使える部分だけで学ぶ」
藤田研究室では、超音波画像の中からROI(Region of Interest、関心領域)と呼ばれる小さな候補領域を複数切り出し、それらを組み合わせて判定する仕組みを研究しています。血管や他の臓器の影が写り込んだROIは肝臓組織の本来の特徴を反映しておらず、かえってAIの学習を妨げます。そこで活用されるのがMIL(多重事例学習)という弱教師あり学習の手法です。患者単位の診断ラベルだけを頼りに、ROIの中から「学習に使えるもの」を自動的に選び出してモデルを構築します。実験では、全ROIをそのまま使うよりもMILを使って有効なROIを選択したほうが診断精度が向上することが確認されています。
さらに最新の研究では、各ROIの「信頼性スコア」を計算し、信頼できるROIだけを自動的に選んで学習に使う仕組みも開発しています。少ない症例データでも診断支援の精度を安定して高めることができ、超音波検査を補助する定量的な指標の提供を目指しています。(IEEJ Transactions on Electrical and Electronic Engineering, 2024年)
この研究は山口大学医学部の医師たちとの密接な共同研究として進められており、臨床現場の視点と情報工学の技術が交差する点に大きな特色があります。
🔍 この研究が特別な理由
工学系の研究室でありながら、医師と連携して臨床データを扱い、実際の診断支援を目指す研究は決して多くありません。「技術を作るだけでなく、現場で使われるものを作る」という姿勢が、この研究の根底にあります。
医用画像のAI解析に共通する課題——データが少ない、ラベルが粗い、画像がノイズだらけ——は、インフラ点検や製造検査など他の分野にも共通しています。同じ技術の発想が全く異なる社会課題を同時に解決できる。そこに「情報工学の汎用性」の面白さがあり、藤田研究室ならではの強みでもあります。
医療×AI×情報工学という交差点に立ちたい、という人にとって、これ以上ない学びの場です。