AIの目で社会を守る――
画像認識技術によるインフラ点検・医療診断支援の研究
「人のような熟練技術のコンピュータによる実現」を目指し、コンクリートひび割れの自動検出から医用画像診断支援まで、幅広い応用研究を推進しています。
橋もコンクリートも「老い」を迎えている。AIが人間の目を超えられるか?
私が取り組んでいるのは、「コンピュータに、人間の熟練技術者と同じ目を持たせる」という研究です。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、これは非常に現実的な問題意識から来ています。
日本全国の橋やトンネル、道路などのインフラは、高度成長期に集中して建設されたため、今まさに一斉に老朽化の時期を迎えています。これらを安全に保つためには定期的な点検が欠かせませんが、コンクリート表面のひび割れを目視で確認する作業は、熟練した技術者の経験と判断力に頼っています。担い手不足が深刻化するなかで、この点検作業をどうやって効率化するかは、社会インフラを維持する上で急を要する課題です。
一方、医療の世界でも同じ問題があります。超音波画像を見て肝硬変かどうかを判断するのは医師の熟練した読影技術によるところが大きく、専門医が少ない地域では診断の質に差が生じてしまいます。
私の研究室では、こうした「熟練技術者にしかできない視覚的判断」をAIで実現しようと、コンクリートひび割れの自動検出と医用画像の診断支援という二つの軸で研究を進めています。
「正解データなしで学習させる」――少量アノテーションという核心的な挑戦
AIに何かを認識させるためには、大量の「これが正解だ」というラベル付きデータ(アノテーション)が必要です。しかし実際の現場では、専門家がすべての画像に正確なラベルを付けることは、時間的にも経済的にも現実的ではありません。「AIを使いたいが、データの準備ができない」という悩みは、多くの現場で聞かれます。
この問題に対して私たちが取り組んでいるのが、弱教師あり学習という考え方です。たとえば、「この画像にはひび割れがある」「ない」という画像レベルの大まかなラベルだけを使って、ひび割れがどこにあるかという詳細な位置まで自動的に推定する仕組みを作ることができます。
具体的には、Multiple Instance Learning(MIL)という手法を多段階に組み合わせたパイプラインを開発しました。まず画像の大まかな特徴でひび割れ領域を絞り込み、その結果を次の段階の学習に利用するという連鎖的な仕組みです。最初の段階でひび割れ境界を精度よく捉えれば捉えるほど、後の段階の精度も上がっていく――このカスケード効果を利用することで、詳細なアノテーションなしでも高い検出精度を達成しています。
また、異常検知モデルを応用したアプローチにも取り組んでいます。正常なコンクリート画像だけを学習させ、「正常から外れている箇所=ひび割れ」として検出する方法で、これなら原理的にひび割れのラベルすら不要です。PatchCoreをはじめとする最新の異常検知モデルを評価・比較し、インフラ検査への応用可能性を検証しています。
「なぜそう判断したのか」を見える化する――AIの説明性への挑戦
AIが「ひび割れあり」と判断しても、それがなぜなのかが分からなければ、現場の技術者は安心して使えません。この「ブラックボックス問題」を解決しようとしているのが、判断根拠の可視化技術です。
私たちは、Score-CAMとCBAM(Convolutional Block Attention Module)という二つの技術を組み合わせることで、AIがどの部分に注目してひび割れを判断したかを画像上に明示する手法を開発しました。浅い層(テクスチャ・輪郭)と深い層(意味的特徴)の両方のアテンションマップを論理積(AND)で組み合わせることで、より正確にひび割れ領域を抽出できることが分かっています。この成果は精密工学会誌にも掲載されました。
こうした「根拠を示せるAI」は、現場の技術者が判断を委ねる際の信頼感につながります。インフラ点検であれ医療診断であれ、AIはあくまでも人間の判断を補助するツールです。そのAIが「なぜそう思うか」を説明できることが、実社会への展開に欠かせないと考えています。
AIの力で人の目に代わり社会を守ること、そして現場の専門家と一緒に「使えるAI」を作り続けること――そこに私たちの研究の醍醐味があります。インフラ点検でも医療でも、AIを「道具」として正しく使いこなせる人材が今後ますます必要になります。そうした人材を育てていきたいと思っています。
藤田 悠介 准教授
Yusuke Fujita
情報認識工学研究室 准教授
| 2003年3月 | 山口大学 工学部 知能情報システム工学科 卒業 |
| 2008年3月 | 山口大学大学院 理工学研究科 システム工学専攻 博士課程修了 |
| 2008年4月〜2010年3月 | 山口大学大学院 医学系研究科 非常勤研究員 |
| 2010年4月〜2011年9月 | 山口大学大学院 理工学研究科(工学)助教 |
| 2011年10月〜2013年9月 | 山口大学大学院 医学系研究科 助教 |
| 2013年10月〜2016年3月 | 山口大学大学院 医学系研究科 准教授 |
| 2016年4月〜現在 | 山口大学大学院 創成科学研究科 准教授 |